軌道角運動量

基本的な関係式

軌道角運動量演算子は今までよりも複雑な代数関係を満たしています。

[ L_i,L_j ]=\varepsilon_{ijk}iL_k
i,j,kにはそれぞれx,y,zを適当に入れて下さい。また、\varepsilon_{ijk}はLevi-Civita記号、または完全反対称テンソルと呼ばれる物です。ここで
{\bf L}^2=L_x^2+L_y^2+L_z^2 \; , \; L_\pm = L_x \pm iL_y
を定義しておきます。次に、以下の固有値方程式が成り立つとします。
{\bf L}^2\phi_\lambda^m=\lambda\phi_\lambda^m \; , \;L_z \phi_\lambda^m = m\phi_\lambda^m

有用な関係式

上の定義から今後の計算をする上で、いくつかの有用な関係式が導けます。

[ L_z,L_\pm ]=\pm L_\pm \; , \; L_\pm L_\mp={\bf L}^2-L_z(L_z\mp 1)

λとmの値の制限

はじめの2本の固有値方程式の差を取ると

({\bf L}^2-L_z^2)\phi_\lambda^m=(\lambda-m^2)\phi_\lambda^m
を得る事が出来ます。ここで\lambda-m^2\gt 0となる事をそれぞれの演算子のエルミート性から示す事が出来ます。この不等式からmの値はλの値によって制限される事になります。


mの最大値をlと置くとL_+ \phi_\lambda^l=0となる必要があります。ここで

L_-L_+ \phi_\lambda^l=\{\lambda-l(l+1)\}\phi_\lambda^l=0
となる事を利用すると\lambda=l(l+1)と言えます。なのでこれからは\phi_\lambda^m=\psi_l^mと書く事にします。


mの最小値をl'と置くと上と同様にL_- \psi_l^l'=0となるので

L_+L_- \psi_l^l'=\{l(l+1)-l'(l'+1)\}\psi_l^l'=0
が得られます。これからl'=-lと分かります*1。これでmの値が-l\lt m\lt lとなる事が分かりました。


ここで状態\psi_l^lL_-をk回作用させてmを最小値まで持って行ったとします。

(L_-)^k \psi_l^l=C^k \psi_l^{l-k}=C^k \psi_l^{-l}
よりl=\frac{k}{2}となり、lの値は半整数値しか取れない事が分かりました。

またL_\pm \psi_l^m=C\psi_l^{m\pm 1}のノルムをとる事で

L_\pm \psi_l^m=\sqrt{l(l+1)-m(m\pm 1)}\psi_l^{m\pm 1}
を示せます。

注意事項

上の手続きによってm,lの値は勝手な数値を取れない事が分かりました。しかし軌道の波動関数では半奇数のlの状態を記述する事が出来ません。これはスピンを考えると書く事が出来ます。角運動量の具体的な表示から

L_\pm =e^{\pm i\varphi}\( \pm \frac{\partial }{\partial \theta}+i\cot \theta\frac{\partial }{\partial \varphi}\)
を作り、変数分離すると波動関数が構成できるので、計算で確かめる事が出来ます。

*1:もうひとつの解はl'=l+1となりますが、これは仮定に反するので捨てます。